現地時間 三月六日

ゴールデン・ゲート・パーク、ハイト&アシュベリーへ向かう。

ゴールデン・ゲートにてバスを降りる。観光客が思い思いに写真を撮る。右手にはアルカトラズ島が見える。泳いだら脱走できそうなものだと思う。

降りたものと同じバス停から再びバスに乗る。初乗り時の乗車券は数時間有効なのだ。
ゴールデン・ゲート・パークに入る前に昼食をとる。フォーを食べるのは二回目であり、レストランのフォーを食べるのは一回目である。一回目に食べたフォーはカップ麺であった。
店内はかなり混み合っている。地元住民らしき人々と観光客らしき人々がいい塩梅だ。
店名でもある牛肉米粉麺とかいうものを注文する。割とすぐ来る。大盛のため極めて多い。肉も十枚以上入っている。スープを啜るととても旨い!牛肉が染みた味だ。気温が低く風も冷たいため安心する。

啜りに啜り漸く完食する。ゴールデン・ゲート・パークは店から五分ほどだ。けれども中々に広い。読んだところによれば、日比谷公園の二十八倍の広さを誇るという。
東端に位置するヒッピー・ヒルを目指す。パークの中心は川に囲まれた山になっており、すたすたのぼる。川には大小様々のカモやアヒルが、川辺の木にはリス(大)が見える。リスはとても可愛い。
山の頂上には滝がある。滝と言っても雑なミニチュアみたいな滝だ。ほぼ何もない頂上である。

ヒッピー・ヒルには本当にヒッピーがたむろしている。丘の斜面には、人種混合の若者グループが三組ほど腰を下ろし何かを吸っている。平らの歩道に備え付けのベンチにはラスタ系ヒッピーが、その近くにある相当巨大な倒木には人種混合のヒッピーが集まっている。
しばらくこんな様子を眺めながらふかしていると倒木の方から声がする。ちらりと見ると黒人だ。黒人だからというわけではなくヒッピー・ヒルだからなんとなく危険そうだなあ、とか思い聞こえないフリをする。それでも声がする。明らかに自分と目があう。
行ってみると"Need a weed?"と言う。イキナリかよと思いつつウーンとかはぐらかしているとブツを見せてくれる。ジップロック系の袋に汚い綿菓子の破片のような草が詰まっている。また"Need one? Smoke one?"だ。煙草を吸っていたから何かを吸うヤツだと思われてしまったのだろうけれど、丁重に断る。
すると案外にも普通の世間話に移行する。「コリアから?オー、トキョか。トキョには友達がいるよレゲエ歌ってるんだ、オオサカとキョトにもいるぜ」
聞くとジャマイカ系のお兄さんだ。リー・ペリーを知っていたから安心する。
隣の連中が何やら興奮しだす。声に混じるバンジョーと太鼓の音がする。彼らは倒木をほじくっている。手には蜂の巣の破片である。そしてそれをそのまま食べる。蜂蜜がウマいのだという。勧められるももちろん断る。デブのヒッピーはレジ袋に詰め込み点在するヒッピーに配ってまわっていた。
そうこうしているうちに続々と新たなるヒッピーらが集結してくる。一方とどまり続けるヒッピーは少ない。同じほどの数のヒッピーがフラフラどこかへ向かっていく。ジャマイカンも「寒くなってきたしチャリんとこへ向かうぜ」と消えて行った。パークの外に家があるそうだ。少し可笑しい気もする。

パークはハイト通りに直結している。繋がるパーク入口付近にもヒッピー群が在る。寒くないのかな。
ハイト通りにおいてはヒッピーは目立つ。彼らはお喋りが好きだからだ。若者がゲラゲラ笑いながらバス正面(自転車ラックが二つ付いている)に飛び乗ったり窓を叩いたりと好き放題する。止めて仲間のもとに向かい何故か咽せまくる。のちにレコード店やスーパーでも彼らを見かけた。
思ったほど古着屋は多くない。思ったより所謂ストリート系の店が多い。それからHUFやDiamond Supply Co.なんかもある。ほか、レコード店(いずれも盛況)、フラメンコ衣装💃らしき派手被服を扱う個人商店、スモーク・ショップ、飲食店、そしてGrateful Deadなんかの極彩色グッズを扱う店だ。十七時あたり雨が降り出す。

ハイト通りから一本脇道に入るとムードは一変する。フィルモア通りなんて五億円単位の家屋がずらりと並ぶ超高級住宅街だ。アメリカは家のあるエリアには家しかなく、店のあるエリアにはエリアしかないと考える。車だけはどのエリアにもいる。

ジャパン・タウンはこじんまりとしている。紀伊國屋書店の入ったセンターが中心らしいけれども周辺がわからない。日本食レストラン街には非日本人観光客が溢れる。紀伊國屋書店内にはラブライブ!の映像が流れる。

フィルモア通り・カリフォルニア通りにあるPizzeria Delfinaに入る。明らかに裕福と分かるカップルや家族連ればかりだ。五組ほど待ち席に案内される。その間にも持ち帰りの客がレジに押し寄せる。ピザ五枚とサブ料理まで買う客もいる。おばさんは笑顔が素敵だ。他の飲食店同様、従業員が極めて活き活きと働く。
マルガリータはモッツァレラがとても美味しい。きちんとした乳の味がする。ロースト・チキンは付け合わせの緑とレモンの黄と鮮やかなコントラストを為す。そしていたってさっぱりとしたヘルシーな肉の味だ。御馳走様。

フィルモア通りの頂上からは海岸線まで伸びる通りと黒い海とその対岸の街の光が一望できる。雨が降っていたとしても綺麗だ。

宿に着くなりすぐ眠ってしまう。ここ数日おなじだ。おしまい。